2017-06

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Nitro+CHiRAL Official Works~SWEET POOL~  夕映え

IMG400.jpg

夕映え

淵井鏑



いつもと変わらぬ電車の振動が体に響いてくる。午後2時を少し過ぎた頃、やや混雑した車内で吊り革に掴まっていた哲雄は、ふいにあることを思い出した。

あの時、朝の電車で。
まだ、自分が学生だった頃。

鼻先を掠めた甘い匂いに視線を向ける。たくさんの乗客に埋もれるように・・・・・・蓉司がいた。
 偶然同じ車両に乗ってきた蓉司は、青白い顔をして見るからに具合が悪そうだった。
 できるだけ周囲の迷惑にならないように気を配りながら、哲雄は少しずつ蓉司のそばへ近付いた。今にも倒れてしまいそうだったからだ。
 電車が大きく傾いた時、立っているのもつらそうな蓉司の体が揺れた。
 とっさに、腕を伸ばしていた。凭れ掛ってくる重みを受け止める。
 蓉司は顔を上げる気力もないのか、ぐったりと哲雄の胸に体を預けてきた。そのままじっとして動かない。
 弱々しい呼吸。止まってしまうのではないかと心配になるほどに。
 吊り革に掴まりながら視線を落とすと、病的なほどに青白いうなじが目に焼きついた。
 汗に濡れた黒い髪が幾筋か張りつくそのさまは、妙に艶かしい。
 そして、肌にうっすらと滲む、赤。
 おそらく、血だろう。何故そんなところから滲んでいたのか、その理由を考えるよりも先に目を奪われた。
 その色があまりにも鮮やかで・・・・・・触ってみたいと、そう思った。
 うなじに、血に、触れてみたい。
 それから目的の駅につくまで、腕の中の重みと温度がやけに大切なもののように感じられた。
 大切な―
あれから、2年後。
 その日の仕事が休みで、哲雄はある約束のために身仕度を整えていた。
 待ち合わせの時間は午後3時。相手の住まいの最寄り駅に自分から出向くことにした。小さな子供がいるためだ。
 今日はこれから、蓉司の姉と会う。
 姉については蓉司から聞いていたものの、名前や住まいなどは何も知らなかった。だから少し時間が掛かったが、なんとか探し出した。
 電話で蓉司の同級生だったことを告げると、姉は自ら哲雄に会いたいと申し出てくれた。
 初めて聞いたその声はとても柔らかく、優しそうだった。
 蓉司の、たった一人の肉親。
 互いに都合の良い日を話し合って、会う約束をした。
 少し、緊張していた。いや、少しではないかもしれない。普段はあまり緊張などしないから自分でもよくわからない。
 何故、蓉司の姉と会おうと思ったのか。
 それは哲雄自身もよくわからなかった。だが、部屋に帰ってきて蓉司がいなくなったと知った時、思ったのだ。
 蓉司の姉に会わなければならないと。
 時折、蓉司は姉のことが心残りだと寂しそうに零していた。
 だから、その憂いを取り除かなければならないと、今になって何故か強く思った。
 箪笥の扉の内側にある鏡で髪形を整えている最中、哲雄はふと手を止めて背後を振り返った。
 声が、聞こえた気がした。
 蓉司の声が。
 もう、いないのに。
「・・・・・・」
 わかっているのに、気を抜くとまだそばにいるような錯覚を起こす。
 だが、振り返っても何もない。あの暖かな空気に触れることはない。
 思い知るたび、自分自身に苛立った。
 遣り切れない気持ちを誤魔化すように、哲雄は短い息を吐き出すとカバンを取って玄関へ向かった。
 蓉司がいなくなったと知った時、涙は出なかった。
 ただ、蓉司がいないという静かな現実が、ゆっくりと心に染みていった。

 外に出ると快晴の空は吸い込まれそうに綺麗な青で、木々の鮮やかな緑が乾いた初夏の陽射しに照らされていた。
 待ち合わせの駅に着いて改札を通ると、正面の柱の前に子供を抱いた女性が立っていた。
 一目見て、すぐに待ち合わせた相手だとわかった。
 似ている。
 雰囲気が、蓉司に。
 不思議な懐かしさと緊張を抱きつつ、哲雄はゆっくりと女性のもとへ歩み寄った。
 子供を抱き直した女性は哲雄を見るなり、やけに驚いた顔をした。
 その様子に、哲雄も戸惑う。
 姉らしき女性はしばらく哲雄の顔を見つめていたが、やがて我に返ったように慌てて頭を下げた。
 「あ・・・、ごめんなさい。はじめまして。あなたが、城沼・・・哲雄くん?蓉司の姉の、枝里香です」
 黒髪を肩で切り揃えた女性は、色白で折れそうなほどに華奢だった。
 蓉司の唯一の肉親であり、蓉司をずっと支えてきた人。
 表情や仕草は柔和だが、どこか儚げな空気が似ている。
 蓉司を、思い出す。
「それと、息子の悠司です」
 枝里香の腕にしっかりと抱かれている子供、悠司は不安そうな目でおずと哲雄を見上げ、すぐに母の首元に顔を伏せてしまった。
 いつだったか、蓉司に携帯で画像を見せてもらった赤ん坊だろう。
「大きく、なりましたね」
 哲雄がそう口走ると、枝里香が驚いたように目を見開いた。
「知ってるの?」
「携帯の、画像で。前に、蓉司に見せてもらって」
「・・・そう」
枝里香が双眸を優しく細めた。
「あ、ごめんなさい。立ち話もなんだから、行きましょうか。どこか入りましょう」
ぎこちない空気を引きずりながらも、哲雄は枝里香のあとについて通りの方へ歩き出した。

辿り着いたのは、駅から5分ほど歩いたところにある小綺麗なカフェだった。
大きな店ではないが、木製のテーブルや椅子など手作りの質感を大切にした温かみのある雰囲気が心地良い。外にはテラス席があり、客はほとんど女性だった。
今日は天気が良いこともあり、枝里香はテラス席を希望した。通されたテーブルに着き、店員へアイスコーヒーを二つとオレンジジュースを注文する。
程なくして飲み物が運ばれてくると、枝里香は哲雄の方へ顔を向けた。
「あの、さっきはごめんなさいね。会うなり、じっと顔を見てしまって」
 その口元に恥ずかしそうな笑みが浮かぶ。
「実はね、不思議なんだけど。あなたを見た時、何故か・・・蓉司を思い出したの。なんて言えばいいのかな・・・。その、あの子が、そばにいるような気がして」
「・・・・・・」
 相手に気付かれないように、哲雄は静かに息を吐いた。
蓉司が事実上行方不明となってから、枝里香はずっと弟のことを思い、胸を痛めてきたのだろう。
言葉にせずとも、空気や表情から悲しみが伝わってくる。
化学室での凄惨な出来事は、一時は事件として大々的に報道された。蓉司の消息も生徒たちには転校だと伝えられたが、実際には違うのだろうということは暗黙の了解だった。
・・・もっと早く、こうするべきだったのかもしれない。
哲雄の中で深い後悔と罪悪感が生まれる。
以前、しきりに姉を心配する蓉司に何度か聞いたことがある。
姉に会いに行こうか、と。
だが、そのたびに蓉司は会わなくていいと答えた。
姉はすでに姉自身の道を歩き出しているのだから、もう会うべきではないのだと。
それに、今は哲雄がいるからいいのだと、そう言っていた。
だが、それでも・・・。
哲雄は膝の上に置いた手をきつく握り締めた。
蓉司は、ずっと自分と一緒にいる。
悲痛なほどに弟を想う姉に、そう言ってしまいたかった。
沈黙しか返せないことが苦しくて、つらかった。
「こんなこと言ったら、おかしいって思うかもしれないけど・・・。少し前にね、蓉司が、会いに来てくれたような気がしたの。姿は見えなかったけど、耳元でね。俺は、幸せだよって・・・。そう、聞こえたの。気のせいだったのかなってずっと思ってたけど、でも・・・、不思議。今日、哲雄くんに会ったら、あれは本当だったんだって、そう思った」
 そう言って、枝里香は寂しそうに微笑んだ。
もしかしたら、それは。
蓉司が行ってしまった日のことではないだろうか。
だとしたら、蓉司は姉に自分の口から伝えたかったのだろう。
悲しまないで欲しいと。
普通の人に聞こえないであろうその声は、確かに姉に届いた。
今さらながら、想いの強さというものを実感する。今、自分がこうしてここにいること。ほんの少しの間でも、蓉司とともに過ごせたこと。
その全てが、想いが引き起こした奇跡だ。
胸の中、小さな火が灯るように熱くなるのを感じて、哲雄は何かに突き動かされるように口を開いていた。
「蓉司は、あなたのこと、いつも気に掛けてました。あなたのことを話す時は、すごく穏やかな顔になった。本当に大切なんだって、伝わってきた」
 真実は無理だとしても、ほんの少しでもいいから何か伝えたかった。
そうしなければいけないのだと思った。
「・・・そう」
 枝里香は吐息混じりの声で答えて目を伏せ、優しい笑みを浮かべて哲雄を見た。
「なんだかね。今日のこと、ようくんがあなたに合わせてくれたんじゃないかって思うの。いつまでも立ち止まって、悲しんでいてはダメだ、って。・・・変わらないものなんて、ないんだから」
 ―永遠に続くものって、あると思うか。
 いつかの蓉司の言葉が頭の中で響いた。
 あの時、自分はなんと答えただろう。
 思い出すのは、屋上から見た赤く染み入るような夕焼けの光景ばかりだ。
「哲雄くん。良かったら、これからも会えるかな。学校での蓉司のことか、この子とも遊んでほしいし」
 隣に座ってジュースを飲んでいる悠司の頭を、枝里香がそっと撫でる。
 悠司は怯えと興味の入り混じった眼差しで、不安そうに哲雄を見上げてくる。
 その表情がやけに懐かしく感じられて、哲雄は微かに唇を笑ませると頷いた。
「はい」
 力強く、そう答えた。

 枝里香と別れてから、哲雄は電車に乗ってある場所へ向かった。
 かつてはそこへ通うことが当たり前がった、今となっては近くて遠い場所。
 駒波学園の校門前に辿り着いた哲雄は、足を止めてあの頃と変わらぬ夕焼けに染まる校舎を仰ぎ見た。
 時間的にほとんどの生徒たちは下校したようで、校舎付近は閑散としていた。
 校門へ歩み寄ると、脇にある守衛室が見えた。中には初老の守衛が座っている。哲雄が通っていた時と変わっていない。
 不審者だとでも思われたのか、守衛は怪訝な顔で立ち上がると守衛室から出てきた。
 だが、不審者の正体が哲雄だと気付くと、守衛は表情を一変させた。
 在校時、登校するなり昇降口で喧嘩沙汰を起こしたことがあった。その時、真っ先に間に入って哲雄を止めたのがこの守衛だ。
 以来、守衛は哲雄を見かけると声を掛けてくるようになった。
「あぁ、君は確か、この学校の・・・。久しぶりだなぁ。なんだか、顔つきが随分大人っぽくなって。今日はどうしたんだい?」
「・・・近くまで、来たので」
「そうかそうか」
 守衛が懐かしそうな目で哲雄を見つめながら笑う。
「・・・あの。少し、中へ入ってもかまいませんか」
「ん?何か用でもあるのかい?」
「・・・先生に、挨拶がしたくて。すぐ済みます」
「そうかぁ。うーん」
 卒業生とはいえ、さすがに外部の人間を学園へ入れることに抵抗を覚えたのだろう。守衛は難しい顔で首を捻っていたが、やがて振り切ったように頷いた。
「まあ、いいだろう。来校者記録帳に記入して。あと、許可証もつけてね」
「ありがとうございます」
 言われた通り、守衛室で来校者記録帳に名前と住所、目的を記入して許可証を首から提げ、哲雄は昇降口へ向かった。
 守衛には申し訳なかったが、先生に挨拶をしたいという話は嘘だった。
 擦れ違う生徒たちからの驚きと奇異の眼差しを浴びながら、足早に中庭へ出て旧校舎へ向かう。
 部活動の時間のためか、教室が部室として使用されている旧校舎は静まり返っていた。
 今は使われていない昇降口を抜けて階段を上る。在学していた時は気にならなかったが、今見る旧校舎は痛みがひどい。
 それに、体格も身長も当時とあまり変わっていないはずなのに、建物自体が一回り小さく感じられた。
 階段を上っている間、哲雄の頭の中を様々な記憶が走馬灯のように駆け抜けていった。
 思い出と呼ぶにはあまりにも生々しく異様な出来事の数々。夢だったのではないかと思うほどだ。
 この階段も、二人で上った。あの時は必死だった。先のことなんて何も考えてなくて、とにかく・・・・・・一緒に帰ろうと、ただそれだけを考えていた。
 そして、今も。強い衝動に急き立てられて、哲雄は最上階まで階段を上った。
 目の前に現れた扉のノブを捻り、勢い良く開ける。途端、すべてを飲み込むような赤い光に包み込まれた。眩しくて顔をしかめる。
 そう、あの時も。
 こんな風に夕焼けが満ちていた。
 目を細めたまま、ゆっくりと屋上のコンクリートへ足を踏み出す。
 フェンスまで辿り着くと、哲雄は赤く染まった空気を取り込むように深呼吸をした。
 それから、静かに目を閉じる。
 この場所で、二人で夕空を眺めた。
 ――なんか・・・今もしこの世界に2人しかいないって言われたら、そうかもしれないって思いそうだ。全てから取り残されるって、きっとこんな気分なんだろう。
 そう、蓉司は言っていた。
 哲雄も、あの時は同じことを思った。
 自分たちはこんなにも追い詰められているのに、見渡す景色は穏やかでいつもと何も変わらない。無情としか言いようのない現実。それでも・・・二人一緒なら、どうなっても構わないと思った。
 だから。
――ずっと、俺といろよ。
そう告げた。
それ以外、何もなかった。
閉ざしていた目を開けると、哲雄はフェンスの向こうへ視線を投げながら歩き出した。
視界にプールが映ったところで足を止め、再び目を閉じる。
銃弾が。
蓉司の胸を貫いた。助けようとしたが、間に合わなかった。
よろめくその体をとっさに抱き締めて、動いていた。
とにかく、助けたかった。
ただその一心で、気付いたら・・・・・・真っ逆さまに落ちていた。
耳に響く、自分の名を叫ぶ声。
衝撃も、水音も、何も感じなかった。
縋るように密着する体温だけが確かにあった。
叶わないと知っていても――できれば、ずっと。
一緒に、いたかった。
「・・・・・・」
ふいに、暖かなものが頬に触れた。
それは蓉司がそばにいる時の空気によく似ていて、哲雄は周囲を探すように視線を向けた。
だが、求める気配はどこにもない。
確かめるように自分の頬に触れて、気付いた。
涙が流れていた。
暖かな涙が。
ふっと、思った。
蓉司と二人だけで過ごした日々。
自分は、幸せだったと。
「・・・・・・、・・・・・・蓉司」
 呼びかけるように、そっとその名を口にした。
 いないはずなのに、優しく背中を押された気がした。
 枝里香が言っていたことと同じだ。
 いつまでも立ち止まって、悲しんでいてはダメなのだと。
 前へ、進まなければならないのだと。
――永遠に続くものって、あると思うか。
 あの時、問われた言葉。
 もし蓉司が今ここにいて、同じことを問いかけたら。
 蓉司はきっと、こう答えただろう。
 永遠などない、と。
 何一つとして変わらないものはない。歩きださなければならない。
 そのために、今の自分がある。
 彼へ向けて、吐息だけで小さく呟く。
――答えるように。
 カルキの匂いを乗せた風が、哲雄の頬を撫でていった。

                              END

● COMMENT FORM ●

=。。= 亲爱的,这是j庭提前发售画集中書き下ろし的录入吗》?早知道你去j庭就叫你帮我带了,吐血晕倒

感谢大人在小五上的回复和慷慨分享^^已经翻译完毕,不过,没放小五,我放翼梦了,汗。希望大人空闲的时候来观看。
P.S:我也北京的哦~

我这边也在自己BLOG上做了翻译~
自由放出,果然原文是楼主这位好筒子放出的~
为大家奉献值得铭记啊~
可这俩小子出浴还穿啥子衣服啊- -

Re: タイトルなし

> 我这边也在自己BLOG上做了翻译~
> 自由放出,果然原文是楼主这位好筒子放出的~
> 为大家奉献值得铭记啊~
> 可这俩小子出浴还穿啥子衣服啊- -

亲好><
原来亲也翻了阿,奔去看~~
话说偶要加亲的link~~


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プロフィール

chihiro

Author:chihiro
北京出身,現在東京的石田fan一只,隠性JPOPfan,喜歓各種風格音楽,尤其各種OST。
喜歓的声優:石田彰、鈴木千尋、神谷浩史、羽多野渉、平川大輔……以下无限多……OTZ
喜歓的音楽人:GLAY、梶浦由記

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